浅間山の歴史

釜山内部 イメージ画像

釜山内部

「おゝ浅間!初めて観るが懐かしい姿」とは小諸へ向かう種田山頭火の旅日記の中の言葉である。活火山の浅間山は、いつの時代にも日本の原風景として親しまれてきた。地図上では「浅間山2,568m」と記されているが、実際は黒斑山、前掛山、釜山、仏岩溶岩、石尊山、小浅間山などをひとくくりに浅間山と呼んでいる。
浅間山の噴火記録は数多く残されているが、遠い昔の噴火については、この地に残された溶岩層などの地層や、崖などの地形によって明らかにされてきた。
天明3年以後の浅間山断面図

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黒斑山の山体崩壊と塚原泥流
(約2万3千年前~5万年前)

5万年程遡ると、浅間山としてその姿を見せる最古の山は黒斑山である。黒斑山は現在の浅間山の姿の大部分を構成しており、滑らかな円錐状は富士山にも似た火山であった。高さは2,800~2,900m、尾根には烏帽子火山群(高峰山、籠の登、三方が峰など)が連なっていた。
その後、2万3千年前には大規模な水蒸気爆発が起こり、黒斑山全体の半分以上が東側へ崩れた。泥流は佐久岩村田南方へと流れ、塚原では千曲川を南西方向に大きく屈曲させた。堆積物はこの地方に何十個も残る泥流丘(流れ山)となった。この泥流のことを塚原泥流と呼んでいる。

2

仏岩溶岩の堆積物
(約2万1千年前)

黒斑山が崩壊したあとの上層部に同じくらい古い年代の噴出物があり、この噴出物を仏岩溶岩と呼んでいる。 現在「仏岩」、「弥陀ヶ城岩」と呼ばれている前掛山南東中腹に連なる二段の大きな崖や、千ヶ滝の沢の西側の連続した崖にも、仏岩溶岩が露出している。小浅間山は岩相が仏岩溶岩と非常によく似ており、ほぼ同時期の噴出とみられている。
浅間東麓の火山堆積物のうち、白色の軽石層「仏岩降下軽石」は白糸の滝付近で見られ、最大7mの厚さがある。その下部の火山灰層が不透水層となって地下水を集め、「白糸の滝」を形成している。

3

小諸の地盤となった軽石流と田切地形
(約1万5千年前)

田切のガケ イメージ画像

田切のガケを利用し築城された小諸城(懐古園)

仏岩溶岩流が終わったあと、次の火山活動では二回の火砕流が確認できるが、これを浅間火山の軽石流と呼んでいる。噴出した多量の火山灰と軽石の大部分は、南と北へ流下してゆるい裾野へ展開した。南へ向かった流れは湯川の谷を埋め尽くし、一部は佐久盆地の大半を埋め、千曲川の流れをせきとめて一時的に浅い湖もつくった。小諸はこの時に流出した軽石流台地の上に形成している。
軽石流の堆積物は固結度もゆるく、縦に割れやすいので、ごく小さな川により垂直に侵食され、両壁を切り崩し谷底を広げていく。この巨大なみみずのはい跡のような谷地形を「田切地形」と言い、小諸では、小諸城址懐古園、南城公園、美南ガ丘小学校や平原駅周辺で見ることができる。

4

前掛山の形成と釜山の誕生
(西暦1108年・約1万年前)

その後数千年は落ち着いたかに見えたが、再び新たな噴火が繰り返され、過去の爆裂破壊で残った西の黒斑山と東に堆積した仏岩溶岩をまたいだ上に、幾度の火砕流と溶岩流が吹き出し、この経過が前掛山を形成した。
1108年(天仁元年)の噴火では大量の火砕流(追分火砕流)が蛇堀川を流下し、前掛山の山頂が陥没した。その後、火口底には現在の釜山にあたる低い丘ができた。

5

天明の噴火
(西暦1783年)

  • 浅間山夜分大焼之図
  • 大焼之図002
  • 大焼之図003
  • 大焼之図004
  • 大焼之図005
  • 大焼之図006

写真:美齊津洋夫氏所蔵(小諸市八満)

天明3年、1783年5月9日に噴火が起こると、噴火活動は3か月に渡り、北関東一円にも火山灰・軽石の降下があった。8月2日の夜の噴火は特に激しく、南東麓の村々の住民は逃げ出す者が出始めた。
8月3日、激しい噴火による火玉の混じった軽石降下が続き、軽井沢・沓掛・追分宿では家屋の倒壊や火災消失があった。8月4日の火砕流は吾妻火砕流と呼ばれ、堆積物中に当時の巨大な樹木の幹の空洞が残った溶岩樹型が見られる。
8月5日10時、山頂火口と地下のマグマ溜りに通じる壁に付着していた半固結状態の溶岩が、火口より噴き上げられた。鎌原火砕流と呼ばれるこの火砕流は、北側斜面に落下し、土石なだれとなって、鎌原・大前・大笹等の部落を破壊した。同日、鬼押出溶岩流が流出したのち、天明の大噴火は終息に向かった。この一連の活動で釜山が成長し、現在とほとんど変わらない浅間山の姿となった。
監修 渡辺 正喜(郷土・地質研究)
絵図協力 美齊津洋夫氏所蔵(小諸市八満)
参考文献 小諸市誌 自然篇(1986) 西来邦章・高橋康・松本哲一
「浅間・烏帽子火山群の火山活動場の変遷」(2013) 早川由紀夫
「浅間火山の地質見学案内」(1995) 「浅間山の噴火地図1:50,000」
「浅間火山北麓の2万5000分の1地質図」 「浅間山の噴火史」 
はぎわら ふぐ作 早川由紀夫 監修 「火山はめざめる」
荒巻重雄 「浅間火山の地質と形成史の概要」