ガイド3

標高2,000メートル、
想像を超えてくる「星空&夜景」の共演

井田崚太さん 近影

㈱アサマリゾート 高峰高原ホテル 
星空案内人

井田 崚太(りょうた)さん

「地元ガイドおすすめ!浅間山・高峰高原」第3弾は高峰高原ホテルの星空案内人、井田崚太さんにお話を伺います。

井田さんは小学生の頃、お父様の影響で『宇宙戦艦ヤマト』を観たのをきっかけに宇宙に興味を持ちました。「天文ファンまではいきませんが、流星群を見るなどしていましたね」。テニスコーチからホテルマンに転身し、高峰高原ホテルただひとりの星空案内人として、「星空・夜景ツアー」を年間250~300回催行しています。

星好きが衝撃を受けた「想像を超える星空」

神奈川県出身の井田さんは、東京都でテニスクラブのコーチをしていました。
しかし、中高生の頃から興味があったホテルの仕事に就きたいと、コーチを辞めて求職活動をはじめます。そこでヒットしたのが高峰高原ホテル。
面接で訪れた時に見た星空に「想像を超える美しさでした」と、衝撃を受けます。
その美しさは、井田さん個人としては、同じく星空で有名な美ヶ原高原や阿智村を超える衝撃だったとか。

夜空の星

新月か満月かでも、星の見え方はだいぶ違う。たとえば条件の整った新月の日ならば、平地では見ることのできない暗い星までよく見えるそう

高峰高原ホテルは標高2,000メートルに位置し、後方に「アサマ2000スキー場」、すぐそばに「黒斑山」登山口があり、1年中観光客が訪れます。
そして、ホテル別館の屋上には本格的な天体ドームが。毎晩20時からスタートする、宿泊客を対象とした約30分の「星空・夜景ツアー」で天体望遠鏡も活躍します。ガイドはもちろん井田さん。
「普段はあまりしゃべらないので、『星の話をしていると人が変わる』『よく30分ずっとしゃべっていられるね』と同僚に言われています」と、井田さんは、はにかみながら打ち明けてくれます。
土曜日は、北八ヶ岳天文台の荻原茂之さんが来て、より専門的な話を聞くこともできます。

いくら好きでも、年間250回以上見るとなると、さすがに飽きるのでは?と尋ねると、「いや、飽きないですね。肉眼、望遠鏡、双眼鏡などで星空の見え方はまったく変わってきますし、ほうき星(彗星)や流星群、月食など天体イベントもあるので、楽しみ方はいろいろあります」と、間髪入れず答えが返ってきました。

標高2,000メートル×晴天率トップクラスの“星空銀座”

星空で有名な場所は他にもありますが、ここ高峰高原ならではの良さはどのあたりにあるのでしょうか。井田さんは2つ挙げてくれました。

「ここでしか見られない星があります。通常は南半球でしか見られないとされる『カノープス』で、一番明るいシリウスの次に明るい星として知られています。中国では「南極老人星」と呼ばれ、一目見ると長生きできるという伝説のある星です」。
冬場、地平線近くに見えるので本来の明るさよりは暗くなってしまいますが、高峰高原の標高の高さと、角度的に八ヶ岳と富士山の間にちょうど遮るものがないことから見える、貴重な星なのです。

標高の高さが星空観察のメリットになっている点は、他にもあります。佐久平の夜景と星空の共演です。
通常、街の明かりは星空観察の妨げになります。街の強い光が星明りをかき消してしまうからです。しかし、佐久平のほどよい光量と高峰高原の標高が合わさると、両方がきれいに見られるという奇跡の光景が出現するのです。

冬のネイチャーツアー イメージ

高峰高原からは、佐久平、八ヶ岳などが眺められる。よく晴れた昼間は富士山が見えることも

冬のネイチャーツアー イメージ

ガイド中の井田さん。レーザーポインターで星を指すと、夜空にレーザーの光が1本の線となって伸び、それだけでも参加者から歓声が起きる

そんな高峰高原での「星空・夜景ツアー」には、宿泊客の7~8割が参加します。8月のお盆がピークで約50名、少ない時は数名と幅はありますが、天文ファンだけでなく、親子連れ、カップル、友人同士とさまざまな参加者が集います。

井田さんは、その日の星空と参加者の様子を見て、臨機応変にガイドをしていきます。 北斗七星やオリオン座を目の当たりにして「こんなに大きいと思わなかった!」と感嘆する人、天の川を見て「数十年ぶりです。最近はなかなか見られないから」と喜ぶ人と、参加者は思い思いに反応します。

日本有数の晴天率を誇るこのエリアですが、時には悪天候に見舞われることも。「スライドショーに切り替え、生の星空は見られずとも、参加者のみなさんに満足してもらえるよう、工夫しています」。

五感を総動員する体験を

天の川

「ここで見た天の川が忘れられなくて」とリピーターになるお客様も少なくない

夏休みには、自由研究の題材としてツアーに参加するお子さんもいて、後日「自由研究で賞を取りました」と保護者の方が報告してくれたことも。井田さんを指名して「教えてください」と来るお子さんもいました。 「このツアーをそこまで活用してくださるとは思ってもみなかったので、とても嬉しいです」。

また、流れ星を目撃した人が「あっ!」と声を上げるのをきっかけに、参加者同士の交流が生まれることもあります。新月の夜は漆黒の闇の中でツアーを行うので、言葉を発しても誰に話しかけているか分からない状態になることも珍しくないのだとか。(もちろん、真っ暗でも危険のないように細心の注意を払ってツアーは行われるので、その点はご安心を)

神奈川県から移住してきた井田さんは、「高峰高原は四季の移り変わりがはっきりしていて、季節によって空気感がぜんぜん違うことが体感できます」と言います。宿泊されたお客様が、「カラマツの芽が出ていたよ」「浅間山は雪をかぶっていた」と、教えてくれることもあるそうです。

ツアー中も、風のにおい、木のざわめき、遠くから聞こえるフクロウの鳴き声、下界からのぼってくる自動車の走行音など、さまざまな情報が五感を通して入ってきます。 「風のない夜は、ときどき無音になる瞬間もあるんです」。 五感を総動員する体験をしてほしいと、井田さんはガイドである自分が喋らない時間もあえて作るようにしているそうです。

高峰高原ホテル宿泊客限定の「星空・夜景ツアー」は、リピーターも多く人気ですが、星空案内人は井田さんただひとりなので、今後増やしていきたいそう。

ここでしか見られない星空と井田さんのガイドを求めて、今年もたくさんの人が高峰高原にやってきます。