氷風穴(こおりふうけつ)

 小諸市の千曲川沿いの崖線の斜面に立地する氷という地区は、浅間連峰の眺望と豊かな湧き水に恵まれた、美しい風景の残る小さな集落村です。ここには夏でも冷たい不思議な風穴や、点在する石仏があり、深い緑の奥に息づく隠れ里のような雰囲気が訪れる人を惹きつけます。

真夏でも約2℃の天然の冷蔵庫「風穴(ふうけつ)」

氷風穴の5号風穴はその温度差を肌で体感できます。真夏でも約2℃のまさに天然の冷蔵庫です。

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風穴(ふうけつ)とは

 風穴(ふうけつ)とは、自然が生み出した天然の冷蔵庫と言われており、古代より食料を保存する貯蔵庫として利用されてきました。人々はそうしたことから風穴を神様の宿る場所としてあがめ、生活の繁栄を願って大切にしてきました。
 このような風穴は日本各地にありましたが、風穴に最も適した地域として、その数は長野県が圧倒していました。その中でも、旧小諸町にあった風穴は優秀であり、特に明治大正期には、蚕種(蚕の卵)の貯蔵する役割を担って日本の製糸業を支えていました。
1号風穴

深さ約5メートルの1号風穴。明治から大正、昭和初期にかけて、ここへ蚕種を貯蔵していました。

氷室稲荷

村の繁栄を願う氷室稲荷。風穴と氷の集落を見守っています。

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風穴の仕組み

 夏でも冷蔵庫の中のようにひんやりとした「風穴」は、地下の岩の隙間で冷やされた空気が吹き出している場所です。
 日本の風穴のほとんどは岩の多い斜面地層にあり、地下に広いすき間やトンネルが存在しています。ここに冬の寒さを夏まで効率よく保存する仕組みが備わっています。寒さを蓄積する保冷材は、冬場に冷却された岩石です。さらに春から夏、地下のすき間に残る氷が冷たさを保ちます。冷たい風の出口を「冷風穴」と呼ぶのに対して、風穴の上のほうには空気が流れ込む「温風穴」と呼ばれる場所があります。「温風穴」と「風穴」の間の地下は岩の隙間に空気の通り道ができていて、夏は上から下へ、冬は下から上へ、ゆっくりと空気が移動しています。
風穴の仕組み

地下は岩の隙間に空気の通り道ができていて、ゆっくりと空気が移動しています。

温風穴

冬は12℃~13℃の空気が出ている温風穴。ここだけぽっかりと雪が溶けています。

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氷風穴(こおりふうけつ)の歴史

宮浦池の天然氷の切り出し(昭和47年頃)

宮浦池の天然氷の切り出し(昭和47年頃)

 氷風穴の歴史は古く、約300年前の江戸時代(元禄年間)の文献に「風穴で凍氷を貯蔵し藩主へ献納した」と記されています。池からの天然氷の切り出しと風穴での貯蔵はそれからもなお続けられ、実に昭和60年頃まで行われていました。
 明治時代の日本は、外貨獲得のため輸出用の国産生糸をより多く生産する必要がありました。蚕の自然孵化は通常年1~2回が限界でしたが、風穴へ蚕の卵を冷蔵保存(蚕種貯蔵)することにより人為的に孵化のタイミングを調整し、年に5~6回の孵化ができるようになりました。
 明治7年、日本が国を挙げて養蚕への取り組みを開始すると、旧小諸町村氷村の前田信右衛門は風穴を利用して蚕種貯蔵業を始め「氷風穴同益社」(明治7年~昭和7年)を創設しました。
蚕種入穴の光景(明治41年)写真提供:前田正孝氏

「氷風穴同益社」蚕種入穴の光景(明治41年)写真提供:前田正孝氏

 当時、長野県を中心として全国に蚕種を貯蔵する風穴は概ね300基ほどありましたが、その中でも小諸の風穴の蚕種貯蔵高は群を抜いて全国一の実績があり、関東の全域、近畿、四国、中国、九州など全国から依頼を受けていました。
 やがて、昭和に入ると電気冷蔵庫の普及や化学繊維の台頭などにより、蚕糸業は縮小を余儀なくされ、やむなく氷風穴も昭和7年にその役目を終えました。しかし、風穴はその後も天然の冷蔵庫として利用され、農産物や出荷用の花、漬物などの保存用に使われてきました。ここに残る4号風穴は、現在も稼働している希少な風穴のひとつとなっています。
4号風穴の入口の看板
4号風穴
4号風穴の内部
4号風穴内部

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氷の地名の由来となった伝説

 昔、弘法大師が真夏に諸国行脚で通りかかり、あまりの喉の渇きに村人に水を求めました。親切な村人が冷たい水を差し上げたので、大師はたいそう喜び、お礼として「氷と湯のどちらが欲しいか?」と聞かれました。村人が氷を選んだので、氷室(風穴)が得られ、地名が氷となったそうです。また大師が残った湯を投げ捨てたところが草津の湯であるとも伝わっています。 (氷風穴同益社『氷風穴案内』より)
《氷風穴は見学自由です》
■ 氷風穴の里保存会
電話:0267-23-0397/22-6136/23-2337
【氷風穴公式HP】
https://fuuketsu.wixsite.com/koori

【ガイドのご希望はこちら】
「風穴と氷集落ガイド」
風穴・温風穴案内、風穴内部の見学(一部非公開)、集落のガイド <料金 3,000 円 ※要申込>
【交通のご案内】
■タクシー:氷風穴までの参考料金<約1,900円/約4㎞/10分程>
■レンタサイクル:氷風穴までは電動アシスト自転車で約30分程。小諸駅舎内の小諸市観光案内所で受付しております。⇒レンタサイクルご利用案内